FAQ(よくある質問)
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Q.履行可能性とは?
個人再生が認められるかどうかのポイントが履行可能性です。
借金に至る経緯よりも、この履行可能性こそが個人再生では最も重視されます。
この記事は、
- 個人再生ができそうか知りたい
- 借金の返済を抜いても払えるかわからない
という人に役立つ内容です。
個人再生の履行可能性とは
履行可能性とは、個人再生で、再生計画案の通りに払える可能性のことをいいます。
これがないと、個人再生は認められません。
個人再生では、裁判所で審査され、再生計画案で減額された借金を分割払いしていきます。この分割払いができるかどうかの可能性です。
履行可能性の判断基準については、個人再生の中で、住宅ローン条項を使うかどうかで変わります。
民事再生法の条文のなかで、住宅ローン条項を使うかどうかで変わっています。
履行可能性の判断基準は住宅ローンの有無で違う
住宅ローン条項を使わない場合には、再生計画が遂行される見込みがないときは、不認可事由とされています。
これに対して、住宅ローン条項を使う場合には、再生計画が遂行可能であると認めることができないときが不認可事由とされています。
民事再生法231条1項です。履行可能性という言葉自体は、民事再生法の条文では出てきませんが、これらの規定が、履行可能性について記載したものといえます。
パッと見たところでは、同じではないかと感じる人もいるかもしれません。しかし、法的には大きく違います。
前者は、「見込みがない」なら不認可、後者は、「遂行可能と認める」なら認可という表現です。
前者は、デフォルトでは認可だが、見込みがないなら不認可とする。後者は、積極的に遂行可能と認めてもらわないといいけないという基準です。
履行可能性の判断基準が、住宅ローン条項を使う方が厳しくなっているのです。
住宅ローン条項を使った再生計画案の方が、履行可能性の判断基準が厳しいのは、住宅ローン条項を定めた再生計画の場合、履行可能性が高くない場合にまで住宅ローン債権者の意思に反して再生計画を認可するとすると、住宅ローン債権者に対して不利益を与える恐れがあるからです。
個人再生の履行可能性の判断方法
このような履行可能性については、どのように審査するのかについて、裁判所によって変わっています。
個人再生委員を選任する裁判所では、個人再生委員による審査がされます。
神奈川県では、弁護士が代理人になっている場合には個人再生委員をつけないのが原則です。
その場合、どのように履行可能性を判断するのかというと、まず個人再生の裁判所に申し立てをした際に提出した家計状況です。
個人再生における家計簿のチェック
神奈川県では、家計状況を3ヶ月分提出します。
この家計の収支を見て、個人再生の再生計画案で払うことになる金額を、払えそうかどうかチェックすることになります。
この家計の収支は、預金通帳や、他の財産と矛盾していると問題になります。
それらとしっかり適合するような家計の収支を作成し、その上で、返済余力があると認められないといけないわけです。
個人再生の申し立てをした後も、裁判所から、家計状況を指摘され、履行可能性があるか疑問があると指摘されることも少なくありません。
問題がありそうな家計状況の場合には、申立前に改善が必要です。たとえば、保険、通信費のような固定費の見直しが選択肢になります。
将来の家計状況見込みを提出する
個人再生の申し立ての直前3ヶ月分の家計の収支が、一時的な事情により悪いようなケースがあります。
直前の家計状況では、履行可能性がなさそうだけど、ホントは払える、というケースです。
このような場合、通常時の家計収支を上申書で提出したり、将来の見込みの家計収支を提出したりすることもあります。
例えば、家族の収入が減ったものの、今後、それが改善する見込みであるとか、子供の教育費がかからなくなる見込みであるなど、そのような特殊事情があれば、上申書等で補足説明をすることになります。
これにより履行可能性が認められることも多いです。
履行可能性判断のための履行テスト
家計の収支以外に、多くの裁判所で採用されているのが、履行テスト、積み立てテストや試験積み立てなどと呼ばれるものです。
これは、個人再生の手続き中、再生計画案の提出前後まで、将来払うことになるであろう見込み金額を、弁護士の預り金口座などに積み立てさせるものです。
個人再生の手続き中は、借金の返済がないわけなので、本来、返済分の余力があるはずです。
その返済分の余力があることを、その期間、毎月貯金させて確認する方法です。
例えば、借金が500万円で、再生計画案で100万円まで減額することを考えている場合、毎月の支払いは3万円弱になります。
そのため、約3万円を、毎月の給料日ごとに弁護士の預かり金口座等に送金させて、毎月の積立がができているのであれば、履行可能性があると判断するものです。
この積み立てを怠ってしまうと、履行可能性がないとして、再生計画を認可しないという扱いも行われています。
このように、多くの裁判所では、履行可能性については、家計の収支、積み立ての実施という点がポイントになってきます。
履行テストの積立金額と返済期間の延長
履行可能性の判断のための、履行テストをする際の金額等についてはどのように決めるのかというと、個人再生の再生計画案で支払う見込み額となります。
これを、再生計画を出す前に積み立てるのです。
通常、個人再生では、減らされた金額を3年間で分割払いすることになります。
しかし、3年での返済が難しいような特別な事情があれば、5年まで延長できます。
個人再生の申し立てをする時点で、5年弁済などの延長を使うのか決めておくのが望ましいです。
3年での金額では履行可能性が認められないものの、5年での金額なら認められそう、というケースも多いです。
このような場合、当初から、裁判所に対して、5年弁済で進めるという内容の報告書等を提出しておき、これを前提に履行可能性の判断や、積み立てをしていくことで、スムーズに手続きが進められます。
これらと詰めずに、個人再生の申し立てをしてしまうと、混乱が生じるので、申し立て前にしっかりイメージしておいたほうがよろしいでしょう。
もちろん、個人再生手続きは、その中で債権調査が行われるので、正確な再生計画案での弁済金額は確定していないのが通常です。
しかし、おおよその見込みは出せるので、その見込み額をもとに、積み立てをしていくことになります。
履行テストの期間
履行可能性を判断するための、履行テスト、試験積み立ての期間についてですが、これは裁判所によって違います。
東京地裁などでは、6ヶ月かけて、積み立てをさせて、これを個人再生委員の費用に充てる運用です。
神奈川県の多くの裁判所では、積み立て勧告をされるケースでも、その期間は、3ヶ月程度の積み立てとなります。
個人再生の手続き開始決定から、再生計画案の認可までの期間として、3ヶ月程度かかるからです。
その期間に、3回程度の積み立てができれば、再生計画の認可決定を出すという流れになっています。
このように、履行テストの期間については、裁判所によって異なりますが、神奈川県では3ヶ月程度です。
履行テストの積み立て一括払いはNG
履行可能性を示すための、履行テストについては、毎月の収入ごとに積み立てをすることが必要です。
これを一括でまとめて振り込むようなものでは認められません。
履行テストの積み立て指示をされていたにもかかわらず、これを忘れてしまっているようなケースで、まとめて振り込むような事態が想定されます。
しかし、そのような場合は原則として、期間中の積み立てがされていないものと認められてしまうでしょう。
個人再生の計画案でも、毎月の支払いをしていくことになるので、毎月の積み立ては必ず忘れないようにしましょう。
個人再生で履行可能性が否定された事例
文献などで、履行可能性が否定されているケースとして、個人再生の申し立てまで時間がかかっているケースが紹介されています。
住宅ローン条項を使ったケースですが、個人再生の申し立てまで、返済停止から1年程度かかっていたにもかかわらず、その期間に、全く預金が増えていなかったようなケースです。
返済を止めているのであれば、余力があるはずなので、貯金が増えるはずです。
その余力から返済をするというのが個人再生なので、返済を止めているにもかかわらず預貯金が増えてないということであれば、家計の収支からして払えないのではないかと疑われるわけです。
紹介されている事例では、住宅ローンも他の債権と同じく支払を求めていたにもかかわらず、預金が増えていなかったという点で、履行可能性が否定されていました。
申立までに長期間がかかっているケースでは注意が必要です。
履行可能性と家族の収入
個人再生の履行可能性については、家計全体の収支を見るため、同居者の収入も判断要素になってきます。
配偶者などの同居家族が、安定収入を得ていて、それが生活費を補填してくれるのであれば、債務者自身の収入から返済できやすくなるといえます。
また、同居に限らず、別居している親が継続的に援助してくれるようなケースもあります。
これによって家計収支が改善され、返済余力が生み出せることもあります。
ただし、別居している親族の援助などでは、その人自身の収入の書類や、援助を再生計画案による返済期間中は続けられるというような一筆をもらったりすることもあります。
同居家族だけの家計収支で、履行可能性が微妙な場合には、このようなフォローをすることで履行可能性が認められるケースもあります。
給与所得者等再生の可処分所得と履行可能性
個人再生の中で、最も使われる小規模個人再生ではなく、給与所得者等再生を使う場合もあります。
この場合、可処分所得の要件が必要になります。
可処分所得要件では、その人の収入や、生活状況、家族状況などから、返済余力に近いような数字を算出します。
このような可処分所得が、計算上はマイナスになってしまうケースもあります。
扶養家族が多いようなケースが、マイナスになることもあります。
可処分所得がマイナスという事は、計算上は可処分所得がないわけなので、返済ができないのではないかと疑われそうです。
しかし、実際の運用では、可処分所得がマイナスであっても、それだけで履行可能性は否定されていません。家計収支や試験積み立てとしての履行テストの方が重視されます。
可処分所得がマイナスな理由として、家族が多いなどの事情であれば、さほど問題視されません。
家計収支の実態の方が重視されます。
可処分所得の計算は、家族にかかる必要経費などが決められているため、実際の家計と数字が乖離することもあるので、そのような場合には、実際の方が重要視されます。
個人再生については、簿記資格も有するジン法律事務所弁護士法人の弁護士に、ぜひご相談ください。